水島新司の読み切り作品が心に沁みる - ONE-SHOT COMICS TO THE HEART -

投稿者 まーすけ 投稿日時 2018/02/07

先日、部屋の整理をしていたところ、水島新司の短編集が出てきました。


(小学館 少年サンデーコミックス 「野球どアホウ伝」全5巻)


 「野球どアホウ伝」というタイトルですが、シリーズものではなく、掲載誌も年代も異なる様々な作品が収録されています(サブタイトルは“⚾水島新司傑作まんが選⚾”)。つまり、高橋留美子の「るーみっくわーるど」と同じタイプの単行本です。

 小学館から「少年サンデーコミックス」レーベルとして全5巻、のちにデラックス版(「スーパー・ビジュアル・コミックス」レーベル)として全3巻で刊行されています。


 収録されている作品は以下のとおりです。

(順番は「少年サンデーコミックス」版に準拠)

  • 出刃とバット
  • パンダ球団
  • 幻球秘話
  • 酔いどれ90番
  • 少年甲子園
  • 赤いプロテクター
  • スマイル五郎
  • 野球どアホウ
  • ルーキー30
  • ああ球魂
  • 怪物誕生!
  • 江川投手とおれ
  • ほえろ若トラ
  • ガラスのシンデレラ
  • 水島新司伝

 スピンオフ作品あり、水島新司の構成を基にアシスタントが作画を務めた作品あり、果ては影丸譲也の手による、漫画家・水島新司との回想録あり、とバラエティに富んだ作品群ですが、この中で筆者の心にいちばん沁み入るのが「出刃とバット」です。

 小学館漫画賞を受賞したこの作品は、野球好きの主人公が、家業を継ぐために高校進学を断念し野球を諦めるところから話が始まる、という、まさに作者の生い立ちを彷彿とさせるものです。ネタバレになるので詳細は書きませんが、この時期の水島新司作品に色濃く表れる、ある種“浪花節”的なストーリー展開にグッとくるのです。


 水島新司といえば、「ドカベン」や「男どアホウ甲子園」といった、長編連載もので人気を博してきましたが、個人的には、こと“ストーリーテリング”という視点に立ってみると、短編/読み切りの作品にその才能が凝縮されているような気がしてなりません。たとえ主人公が挫折したとしても、その中にはペーソスも希望もあり、それらを読み切りというフォーマットでコンパクトに描き切るのがとても小気味よいのです。


 「出刃とバット」以外でも、正捕手の座を巡る争いから波乱の展開を見せる「赤いプロテクター」、飄々とした風貌から、訳ありの“魔球”を繰り出す「スマイル五郎」、主人公も監督もとにかく熱い「野球どアホウ」など、魅力的な作品が目白押しです。


 ただ、残念ながら、現在「野球どアホウ伝」は絶版なので、古本で入手するか、あるいは図書館や漫画喫茶で読むか、ということになってしまいます。

 「出刃とバット」に関しては、翔泳社からも「名作MANGA選集」として刊行されていたので、他の作品より比較的チャンスは多いかもしれません。


 ちなみに、「ルーキー30」は、初出時と単行本掲載時では、セリフの中身が違っています。


(『ビッグコミックオリジナル号』1972年10月20日号より)


 

(少年サンデーコミックス 「野球どアホウ伝」3巻125ページ)


 おそらく、青年誌では問題がなくても、“少年”サンデーコミックスに収録するにはきわどいだろうという忖度が働いたのかもしれません。

(単行本の掲載情報には『ビッグコミック』とありますが、厳密には、増刊号の『ビッグコミックオリジナル号』です)

 他の作品までは調査しきれていませんが、ここまでくると、奥深いというか抜け出せないおそれがあるので、ほどほどにしておかないとえらいことになりそうです。


 もしもあなたが、「ドカベン」プロ野球編以前の水島新司作品に接していないのならば、たとえ古本屋巡りをしてでも、紹介した作品をぜひとも読んでいただきたい。それほどの素晴らしさが水島新司の読み切りには詰まっているのです。

(ホントは、野球漫画を描く以前の、よりディープな水島新司ワールドもあるのですが、それはまた別の話…)

(文中敬称略)

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